青焔会報 2002年4月号  
   
風船旅行  
米山郁生
 
   

 風船旅行に出かけた。 

 幼い頃、シャボン玉をふくらませた様に、心臓の中に風船を膨らませた。夢がふくらまない内に、フウセンの灯である。
心臓に血液を送り込む冠動脈の一本が99%の狭窄、動脈硬化を起こしていた。殆ど血が送られておらず、心筋梗塞寸前、反対側から血流が延び心臓を生かしていた。人間の体は不思議である。己が自覚する事の有無に拘らず、体、自身の細胞が生命を維持する為に総ゆる手段を講じる。

 我がままな性格をしているからストレスも多い。人生こうありたい、人と人との関係はこうあるべきだ、人に対して義理人情は絶対に欠きたくないという思いが強い。若い内は自分の思う様に行動する。他人が意に反した行動をしても自分自身が納得のゆく様に処理してしまう。であるからストレスもたまらない。しかし齢はとりたくないもの、その願望と体力とのバランスがとれなくなる。自然、他人にそれを求める、思う様にならない。ストレスがたまる。数年前から発作が起きた。最近はニトログリセリンの錠剤を服用。度重なる発作に危機を感じた。正確な情報を主治医に伝えるべく胸痛の発生状況をグラフにした。12月26日から一ヶ月間、縦軸に日付、横軸に一日の時間を設け、痛みの程度を軽いものから息の出来ない程度迄、1〜5の数値で表わす、発生した日、時、痛みの程度、何をしていた時か、どうして直ったかを項目別に色分けして表示した。多い時は一日数回の痛み、グラフは花火の様に美しく仕上った。

 主治医に持参、各種検査の必要をと面談中、チャンス到来、胸が痛んだ。検査の為、5階から7階にある医院へ。移動する途中痛みが消えた。胸痛解明のチャンスを逃がす!と5Fから7Fの階段を登ったり降りたり、痛みが3〜4に再現、おまけに何度もポンポンと跳躍、息の出来ない程の発作を起こしニトロも飲まずに医院に飛び込んだ。連絡を受けていた看護婦さんが心電図を計る為にベッドへ、と。しばらくそのまま、徐々に痛みが和らいでくる。これでは苦労も水の泡、「看護婦さん、死にそうだよ早くしてくれ!」と要求。事実を歪曲するのではなく病状を正確に伝える為に状況を再現するのだ。心電図、そして運動負荷検査へ。3分程歩行して血圧240、痛み5、すぐ横になる。ニトロを一錠、また一錠。しばらく休んで八事行きの話しになった。「もう手遅れですね。八事の方の予約をしましょう!」とは言わなかった。一時停車、八事日赤に予約を取った。

 カテーテル検査で2泊3日、近場の温泉に行った様なものだ、が医師が是非もう一度とデータを示した。4日後、朝日カルチャーのはがき絵の講座を途中で抜け出しまた2泊3日。温泉も堪能。退院のその足で名古屋ABCの講座にすべり込んだ。治療は、右手首の血管から、先端に小さな風船をつけた細い管(カテーテル)を冠状動脈の狭窄部分に送り込み、風船を膨らませて血管の内側を広げる、カテーテルを抜いて血流を回復させる。一人の人間の、毛細血管まで総ての血管をつなぐとその長さは地球を2廻りすると言われる。人間の構造も不可思議だが医学の進歩も素晴らしい。県美術館で開催されているポンペイ展でも、長さ27cm直径5mmの青銅のカテーテルが展示されていた。大理石に浮き彫りにされた治療場面を見ると、整った設備も無かろうに二千年前いかにしてカテーテルが使われたのか古代ローマの文明にも驚かされる。

 入院する一週間前、不思議な事があった。

 これまで、いねむり運転をしない様、小牧や高浜のレッスンの後疲れた時は一ねむりする、起きると間髪入れず運転をするのだが、なぜか車から降りて熊の様に5分程歩き廻った。途中、赤信号ではなく青信号で車を止め、後続の車を確認しながら二信号見送った。理由も無く、なぜこの様な行動をしたのか、己に問いかけながら走った。23号線、大高と要町の中間折戸付近の追越車線、右折の為にいつも必ず走る車線前方に点滅灯が見える、減速する。大型トラックが事故で停車、近くにはガラスの破片、車の部品が散乱、左側車線にはライトの点滅と人だかり、10台程の事故車、まだ事故が起きて5分程なのだろうパトカーも救急車も居ない。

 不可思議な時間を費やしたのはこの事故をさける為だったのか。しかし高浜を出る時は25分程前、事故が起きる前なのだ。交通網の大動脈の事故を眼のあたりにして自己の心臓の動脈トラブルを確信した、しかし助かるのだ!と。
この4月から医療負担は3割となる。だからといって「今そこにある危機」を見逃してはなるまい。私の知人の中に胸の中央部原因不明の痛みが続くという方も数々。これまでの経験から“胃かもしれない”という疑問も続いた。心臓は放置出来まい。信頼する主治医と相談、是非カテーテル検査をお奨めしたい。

 桜は満開。良寛の句「散る桜 残る桜も 散る桜」等と達観してはいられない。状況は「出すお金 残るお金も 出るお金。」  やっと一幕が終ったばかり さあ第二幕、開幕だ!

 
   
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