青焔会報 2003年12月号  
   
九条  
米山郁生
 
   
  十二月六日昼頃から身体が苦しく、息が出来ない様な状態が続く。胸が圧迫される。七日午前四時頃眠りにつく。寝苦しい。普段は五秒から十秒程もあれば深い眠りにつくのだが……苦しい……ニトロを飲むべく胸のポケットに入っている薬のケースを取り出す。テーブルの上に様々な薬をぶちゃける。一瞬驚いた。これは何だ!中から半分こげた様に黒くなったバッタが二匹、転げ出た。手足が千切れ死んでいる。なぜという驚きと、可哀想にという感情と、埋葬しなければという思いが交錯し、心臓が高鳴った。苦しい……右手で胸を押さえる……眼が覚めた。あぁ夢か。奇妙な夢だと思いつつ夢の前後を想い起こそうとした。誰かが亡くなったのだろうか、という想いが閃いた。過去にも一昼夜身体が苦しくて転げ廻った後に、親しくしていた青年が自ら命を断った事が二度あった。又夢の中で友人の家が燃えていた。息苦しくなり心配で電話をした。実際火事の最中であった。友人が夜、車で帰る。三十分程して気になり携帯に電話する。右前方で事故があるから気を付ける様にと……話をしている内に右前方で車四台程の事故に遭遇した。なぜか……六時、眠れないままテレビをつける。ニュースが流れていた。日本人の外交官二人が射殺された……

 平和の為に命をかけて働いた二人の外交官。葬列の日、家族の方々の外交官の家族であるという宿命を必死に耐えている姿が痛ましい。

 首相が国会で自衛隊派遣の正当性を訴えた。日本の憲法に"われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであって、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。"とあるではないかと主張。しかしその前の文章に"― 略 ―政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、― 略 ―平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。"とある。その後に小泉首相の主張する文が続くのだ。そして第九条には戦争の放棄と軍備及び交戦権の否認を定めてある。アメリカにさえ、その九条を世界に広めようとして運動している人達が居るのだ。自分の都合の良い部分だけを抜き取り主張する心に、公明正大な精神は無い。

 小泉首相がブッシュ大統領と対面した時、ブッシュ氏は右手を差し出した。小泉首相は両手でこれを握りしめ、ブッシュ氏の左手は小泉首相の背中を抱いて、左肩に廻し何度も肩をたたいていた。これは一国の代表の対等の挨拶ではない。小泉首相の米国追従の姿勢があまりにも如実に現れている。同様の形を自分が試してみれば明解だ。その結果自衛隊を出します。無償援助もします。債券放棄もします。しめて一兆三〇〇〇億円。小泉首相を支持した人達がこれを分担するとしたら、それでも小泉首相を支持するのか。

 小牧空港で自衛隊員を前に"皆さんの姿を見て最も誇りに感じているのは、ご家族ではないかと思います"この言葉は事の重大な責任を家族の情にすり替えている。瞬間の間合いだったが、テレビで"死をおそれず時に死を望む。いい言葉だ"と語っていた。後に"ラストサムライ"のポスターがあったが、映画の感想だったのかも知れない。しかし時が時。一人一人の国民を大切にする。そうした思想は持ち合わせてはいまい。

 米軍は湾岸戦争でも使用し、自然を破壊した劣化ウラン弾を使用している。残留放射能は一〇〇年たっても減らず、風に散り水に溶けて広がるという。日本は自衛隊の武器使用基準を"訓令"で定めた。初めて戦場に出た人間が危機に直面した場合、総ゆる条件をクリアして訓令通りに行動出来る事はあるまい。日本を戦争に駆り立ててゆく小泉首相、石破防衛庁長官、川口外相らの硬直、能面化した顔が、心から和む時はあるのか。

 
   
青焔会報 一覧に戻る
 
   
絵画教室 愛知県名古屋市内外 青焔美術研究所 トップページ