青焔会報 2005年8月号

 
   
一心  
米山郁生
 
   

 水彩画の場合、重要な要因となるのは紙と水である。紙は中国で発明された。その最も古い紙は前漢時代、紀元前150年程と言われる。それより古くは木簡や竹簡。石や木の葉に刻まれていた。

 紙を選ぶ場合、吸水性があるか無いかの度合いが作品の表情を変える事になる。吸水性は見ただけでは判らない。昔、画材店であるスケッチブックの吸水性を尋ねた「判らない」という。「判らない? 嘗めるよ!」と言ったら、「嘗めるなよ」と聞こえたらしく、「いや嘗めてなんかいません」と答える。「嘗めてなんかいないから判らないんだよ」キョトンとした顔の店員を尻目にスケッチブックを広げ、人のさわらない部分にペロッと舌先を当てた。舌先が紙にジワッと吸い込み吸水性の強さを感じる。これは吸い込みがよく判るのだがあまりお奨め出来ない。皆が皆、画材店のスケッチブックをペロペロ嘗めては衛生上宜しく無い。実際には様々な紙質のものを使ってみる事だ。描く対照のものをどの様に仕上げるかを決めて、その目的に合った紙質を選ぶ。又、紙の表面のザラつきにも色々ある。大きな変化、荒々しい状態の作画を望むなら表面のザラつきの大きな紙を、静かな雰囲気を出すのであればツルツルに近い紙を選べば表情が出やすい。紙の厚みも影響する。何回も色を重ねて描く時、薄い紙では水分を含んで凸凹や湾曲するが、厚い紙であればその心配は無い。厚さは1平米あたりの紙の重さのグラム数。例えば250gとか180gで表示されるが、スケッチブックに依っては表示されないものもある。

 水彩画用紙は螺旋状の針金で綴じたものや、片方を糊付けし一枚一枚をはぎ取れるもの、四方を糊付けし水張りの状態で描き、描き終えてからはぎ取るもの、一枚一枚バラバラの紙や1.7米の巾で長さ10米がロールになったものもあるので、それを裁断すれば自由な大きさに描く事が出来る。

 対象を描画する材料も鉛筆、コンテ、水性、油性のサインペン、インク、墨、色鉛筆、クレヨン、クレパス、パステルと多種多様、使い比べてみるのも楽しい。それらの材料を使って線を生かす作品を作りたい時には描画の後に薄く色を重ね線を生かす事が大切であり、線と色との微妙なバランスがその人の作品の個性となる。

 水はその量で絵の雰囲気を変える。多めの水を含ませた色を重ね合わせるとそのにじみの効果が出る。色と色は水分の多い方の色に引かれ、色の境目を融合して自然の面白さを出す。色を塗った後に水だけを含んだ筆でなぜてやると、その部分がぼかしの効果を生む。影をつけたり、グラデーションを生かす時に良い。重ね塗りの場合、薄い色を何度も重ねてゆくと画用紙の面まで光を通し、重ねた色が複雑で深い精神性を持つ。色は明るい色から重ねてゆく事が大切で、暗い色の上に明るい色を塗るとその色は濃い色に吸い込まれ生きてこない。又、白をあまり重ねると色が鈍り、カビが生えた様な色になりやすいので避けたい。色を重ねる時、下の色が厚く、完全に乾いていない状態で筆を重ねると下の色を削ってしまうので、葉脈を描く時等、その目的以外では下の層が乾くのを待つ事が大切である。

 水彩画といっても様々な用具を使いこなす事によって深い味わいを求める事が出来る。筆の太い細い、平筆、丸筆、毛の硬、軟の使い分け、子供の頃に描いたハブラシや網を用いたスパッタリング、白を抜く為のマスキングテープや筆で塗るマスケットインク、スポンジやティッシュ、脱脂綿、カッターナイフ、霧吹き、新聞紙や布等を貼ったコラージュ、様々な画材の混合表現。

 絵とは対照に対するやさしさと思いやりから生まれるものかも知れない。私はこれを使ってこう描くんだという考え方も良いが、対照に対してどういう描き方をするか、何を使いどう表現してゆくのか。自己を主張するだけでなく、思い、描く対照に心を同化して努めるところに力作や傑作が生まれる様に思う。

 絵は上手い下手ではなく、子供達が無心に描いて素晴らしい作品が出来る様に、描く人の人柄が表われる。その部分を広げてゆく事に依って、内向的、自閉的な人や子供達、伝達方法の苦手な障害を持った人や子供達の力になる、アートセラピーが生まれてくるのだ。

 描きたいものを楽しんで、一心に‥‥‥。

断続的に続く

 
   
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