青焔会報 2005年10月号

 
   
霹靂  
米山郁生
 
   

 ABC教室はヒルトンホテルの西隣、朝日会館の14階にある。教室の窓から名駅ツインタワーが程良い距離で眺める事が出来、近くのビルと合まって絶好の構成、いつか絵にしたいと思っていた。いつからか一方のタワーの前に新しいビルが覗き、みるみる内に延びてタワーを隠してしまった。更にその前に、どっしりとしたビルが建築中である。床面積に対して十倍程もあろう立方体がこの地震国に林立する。世界の大都市が同じ様に上へ上へと背を伸ばして発展してゆく、その建設する技術とスピードに敬意の念さえ持っていた。反面、大丈夫だろうかという不安も否めない、自分に出来ない事は何事に対しても敬意と同時に不安を持つ。

 耐震強度の偽装問題が発覚した。事の重大さを認識しない犯罪。あるべき姿、価値を装えないで偽装して販売。多くの人にとっては一生に一度の大きな購入であり、更には生命の安泰を求めての物件である事は当然である。震度5程度の地震は容易に起こり得る事を考えると殺人未遂程の事件なのだ。単に計算を偽装、50万円以下の罰金等とは問題外だ。

 ヒューザー、木村建設、総研、姉歯建築士、それらの人達が利益分配の為に組織的に加担していたのであれば連帯して責任を取るべきであるし、行政も無関係ではあるまい。“民間に出来る事は民間で”という考え方だけでは責任を放棄するだけではないか。世の中常に善と悪の可能性を考え、それを最も良い方向へ向ける為の施策をする。民間に任せた場合、常に利益追求だけを目的とした会社が曖昧な手段を取る可能性は大きい。社会的に大きな事業、命に関わる産業等は当然行政が目を光らせなければなるまい。

 書類審査をする費用が一件15万円と言われている。何億、何十億という物件の最も重要な部分のチェックをする審査料が15万円というのもうなずけない。完璧な仕事をする為のシステムが出来なければなるまい。

 12月9日の時点で偽装物件が63件あるという、まだまだ増えるであろう、そうした多くの現場で偽装を見抜く事は出来なかったのか。“これだけ大きなビルの鉄骨がこれで大丈夫だろうか。”たったそれだけの疑問が多くの経験を積んだ現場で不審に思う事は無かったのだろうか。言われた事を言われた通りにする、一見良い事の様に思うが、言われた事を言われた様にしかしない、それしか出来ないとしたらそこにも問題がありはしないか。検査も建設中の要所、要所で抜き打ち検査をする位は当然の事であろう。住居を購入した住民と同時にビルに隣接した住民の不安は余りにも大きい。商いの基本はいかに相手に満足をしてもらうか。人に対する思いやりであり、表面的に整っていれば、判らなければいいという問題ではない。

 我々が絵を描く、洋画でも日本画でも4,5回塗り重ねれば絵の体裁は整う。画家や画商、評論家が“これが芸術だ。”と言えば絵を専門にしていない人達はそうかなと思ってしまう。売買する場合、買手が納得していれば良いということでもない。作者がその作品に対して精神を込めているかどうかが大切であり、自分自身の良心、プライドに対して偽っていないかどうかが重要なのだ。作者が生きている間は作者の社会的、交友関係の中で作品を補足する事も出来よう。問題は作者が亡くなり、本人の働きかけが無くなってその作品自体の価値が生きているかどうかだ。

 様々な事件が相次ぐ、身勝手な事件が多い。相手を想いやる気持ちがあればこうした事件は起こるまい。我がまま放題に育った場合、親の愛情が乏しかったり、虐待を受け続けた場合、様々なマイナス志向の環境の中で本人の意志が弱いとその片寄りを大人の社会の中で反復したり発散してゆくのではないか。

 気になる鳥がいる。ホトトギスの仲間、カッコウ、ジューイチ、ツツドリ等、托卵性の鳥が日本に4種類、他の鳥の巣に卵を生み、そのままその鳥に育てさせる。ホトトギスの卵はチョコレート色、ウグイスの卵によく似ているのでウグイスの巣に多く生むと言われている、ウグイスの卵に似ているからではなく似せて生むのではないか。それらの鳥は他の鳥が卵を生んでいる頃を見計らいその卵を巣から一つ放り出し自分の卵を生む。その卵が一番早くヒナにかえりヒナは生まれてすぐに他の卵を巣の外に落とし、自分だけエサをもらう。托卵性の鳥というよりは擬装性の鳥といった方が正しいのかも知れない。生まれてすぐそうした行為をするという事は遺伝子の仕業か、生まれ。育ち。

 事件に対処するだけの方策はもう遅い。健全な精神を育てる為の幼児教育が最も必要とされるのだ。

 研究所にも大波が押し寄せてきた。ここ三ヶ月程、特に声を大にして画材店担当者に1Fの退去を予測して管理を完璧にする様注意を重ねた。研究所5Fの教室の借用条件の変更を試算した。青天の霹靂か案の定か翌日支配人がみえた。顔の表情で用件を察した。予測した不安材料は現実のものとなった。1Fの画材店は中央線鶴舞高架街にある画廊へ移転、5Fの二部屋の教室は壁を取り外して大きくし、千種の教室は新栄へ統合。研究所を開講して30年、所在の判らない人や休会中の個人の画材、持ち物を総て保管してあったが今後不可能となる。

 多忙な時期様々な事が重なる。皆様に御迷惑をおかけする事も多々あるがお許し願いたい。

 
   
青焔会報 一覧に戻る
 
   
絵画教室 愛知県名古屋市内外 青焔美術研究所 トップページ