青焔会報 2006年8月号

 
   
新世代  
米山郁生
 
   

 この9月5日、国際ロータリークラブ第2760地区の第一回クラブ新世代委員長会議で講演を依頼された。ロータリークラブとは人道的な奉仕を行い、総ゆる職業に於いて高度な道徳的水準を守り、且つ世界における親善と平和の確立を目指した事業及び専門職務に携わる指導者が世界的に結び合った団体。2005年には世界166カ国、約32000のクラブ、122万人以上の会員数を数える奉仕団体。2760地区とは愛知県全域を指している。 新世代とは0才から30才迄の若い年代の青少年を善良で健全な市民に育てる為の活動機関。愛知県に81あるロータリークラブの各委員長、約140名が集まった会議。

 現在毎日の様に青少年に関わった犯罪が報道されている。親が子を殺める、子が親を殺害する、児童虐待、いじめ、自傷行為、自殺、放火、それらは個々に何らかの原因があってそれらの事件が起こるのではなく、同じ要因が結果として各々の環境、性格、行動形態の中から違った行為として表れてくるのではないか。

 青少年白書によると、平成17年の全国の児童相談所に相談された児童虐待は1990年の1101件に比べ34451件とおよそ30倍にふくれ上がっている。相談所に届かない件数を含めると更に大きな件数が想定される。これらは現代の社会が抱えた問題、社会状況の不安、経済的問題、夫婦不和、人間関係の孤立、孤独感、そしてIT産業等、社会機構が変革されてゆく中で直ちに対応出来ない人達がそのジレンマの中に取り残されてゆく、精神の荒廃。そうした社会状況の中での子育て、親が愛情を見せないままに厳しく育てる、その度合いが過ぎて虐待となる。虐待された子は親になった時、自己の育てられ方と同じ事を繰り返す“虐待の世代間連鎖”が多い。

 子育ての講演会の中でも子供がちぢこまった神経質で小さな絵を描いている、色も暗い、その母親の絵も同じ様な雰囲気を持つ。母親に“貴方の小さい時、お母さんは厳しかったですか”と聞く。殆んどの方が頷く。人は育てるという行為まで遺伝子の中にその習性としてすり込ませてゆくのではないか。常に行為を問い直す、疑問を持ち、問いかけ修正する。新しい眼を自己の中に造り上げてゆかねばなるまい。これは絵画の制作の上でも同じ事が言える。模倣し、追随している内ではものは見えては来ない。常に自己の作品に問いかけ、思索する、改革を行い構築をする、それが失敗であっても、絶ゆまぬ努力によって必ず実を結ぶ事が出来るのだ。何事も結果が出てしまったら、それはもう過去のもの。物であれ人であれ、その努力している姿の中に価値を生む力があるのだ。

 子供を育てる最も大切な役割は母親である。子供に対する母親の知、情、意がしっかりとバランスを取れていれば子供は立派に育つ。知性、事の良し悪しをしっかり持って育てる、情をかける、心意気、考え方をしっかりと伝える、その三本柱が子供にとって宝となる。兄弟はその子供の様々な調整役。母親が子供達に対し平等に知、情、意を伝えてあれば、子供達は日頃の行動、行為の中でお互いに切磋琢磨して成長してゆく。友人、友達はその外界での試金石。母親がしっかりしていれば、父親は直接子供に細々言う事は無い。母親の精神の安定を見守り、子供にとって大きく、深い存在であって欲しい。

 子育ての講演の中で母親が“子供といるとイライラする”“この子は好きだがこちらの子は嫌いだ”と答える人が約15%、“子供の心が判らない”人が80%、“どう育てていいか判らない”と答える人が90%、“自信を持って育てられる人”と問いかけて手を挙げる人はどの講演でも一人も居ない。

 子育てに重要な存在は二つ目に学校。教師をしている友人が語る。生徒が言う事を聞かない、殴ってくる、避ける、逃げる、正面から立ち向かうと、防御しようとしていても生徒に乱暴をしている様な状況を作る、そうした事は絶対に避けたい、親の苦情、教育委員会への通報が事を大きくする。事の本質を見極める、事を解決する、それらに向かって努力するのでなく、事を表沙汰にしない為に腐心している様にしか見えてこない。昔教師は聖職であった、親もそれを認め子を窘めた。いつからであったか教師が労働者としての権利を主張し聖職を献上した、そうした一面もあった、が、やはり教師は人間として聖職を貫き家族と一体となって、子供をいかに育てるかに努力して頂きたい、その姿勢によって親の姿も変わってゆくものと思う。

 親が学校に電話をし“子供が起きないので先生に迎えに来て欲しい”“子供が留年になったのは教師の指導に問題がある”と弁護士と連れ立って抗議に来たり等という話しを講演先の校長の口から聞く事は心外だ。そして三つ目に職場がある。子供に職場は関係無い、仕事をする訳でも、そこに出掛ける事も無い、しかし講演で絵を見せて頂く中で問題を持っていると思われる作品の親御さんはそうした場には中々出席されない。家族の収入源は世帯主の職場、その職場で各々の家庭の和の為に積極的に動く事は出来ないものだろうか。

 仕事の為に学校の行事に参加出来ない親に対し職場で見守る、家庭の和が仕事にも良い結果をもたらす。職場での心使いが地域での様々な事柄に関連づけてゆく。現在、中学生の職場体験が全国各地で行われており好評だ。これもロータリークラブが時の遠山文部大臣に申し入れ実現したと聞く。子供を取り巻く環境が家庭、地域、学校、職場と総ての面で愛情をかける事が出来れば、心豊かな子供達の成長をみる事が出来る。ロータリークラブの講演ではそうした面をお願いした。

 いま世界はゆれている。これからの日本、世界を支えてゆくのは総ての子供達の心の豊かさ、精神なのだ。

 
   
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