青焔会報 2007年3月号

 
   
ガチャン・・・  
米山郁生
 
   

 4月、少しばかり憂鬱な季節でもある。

 なぜか、言いたくもない事を言うべきか、言わざるべきか、毒舌家の私でも迷うのである。この時期、PTA、保護者会、家庭教育学級、教育懇談会、地区によって様々なかたちの組織があり、新役員の活動が開始される。

 FAXが来る。○月○日、先生の講演会が決まりました、御多忙のところ誠に恐縮ですが御出席下さる様御案内申し上げます。

 多いのは五日程の日程を示し、先生の講演が決まりましたので都合の良い日を選んで御報告下さい。丁重な文章の様に見えるが、事前の問い合わせも、打ち合わせも全く無く、突然の出頭命令である。3〜4月は私にとってもスケジュールの調整時期。通常のレッスンだけでも半年間で約500。講演、講義が約100。決まった会議、会合が約100。他に大学、日本表現派、図録の作成、ある団体の30周年記念誌作成、スリランカの子供達の招聘事業、グループ青焔展に作品招待した10年間の実績を踏まえアートセラピーに関した本の発刊事業、様々な実行委員会と数え出したら切りが無い。そんな中で冒頭のFAXである。

 先ず、講演をするかしないか、出来るのか出来ないのか、その問いかけも無いままに自分達の都合だけを主張して来る。無礼者!と言いたいのだが、まあ事を荒立てる事も無いか、と1つの問いかけに確実に都合のつく日を1日知らせておいた。1日おいてTEL、“その日は園の都合が悪いので他の日にして下さい”自分の方から指定した日ではないのかと少し“ムッ”とする。いや少しではなく大変 “ムッ”とした。“4,5日では予定の立て様が無いので多くから選択出来る様、日を増やして下さいと言って電話を切る。

 来年の3月迄の間30程の候補日がFAXされる。私の方のスケジュールが立っていない、いつまでに返事が欲しいのか、FAXの文章を書く時間が惜しいのでTEL.中々居ない。時を置いて7、8回電話してやっとつながる。”返事はいつ迄に必要ですか“”今下さい!“”えっ今ですか“”そうです。この電話で下さい“瞬時に馬鹿者とのど先迄出たが、「見も知らない他人にその様な言葉を使ってはいけません」と天の声だか地の声だかが聞こえて我慢した。事情を説明、半年間の私のスケジュールを決めないと日程は判らないと、懇切丁寧に子供に話す様に説明した。”私の方を決めて下さい。今返事を下さい“と再度言う。”それは不可能だ“”では今回は出来ない事にします“ガチャン・・・・・。突然、喧嘩をふっかけられて罵詈雑言、手も足も出さない内にガチャン。今度は一秒でも早くこちらから切ってやるぞ!そんな気分でFAXをマジマジと見た。依頼者は○○○○学級長、とても偉い人なんだ!名前はフルネームではなく苗字だけ、とても、とても偉い人なんだ。この人を選んだ人達、園の関係者、特にこの母親の子供達の日々の情景が浮かび侘しさを感じた。

 同じ地区、毎年役員を含んで15人程の参加しかない園があった。他では平均5,60人。特別に少なく不審に思っていた。ある年、園長が変わり挨拶にみえた。その園長さんの前の園では80人程の参加。“この園ではなぜこんなに参加者が少ないのだろう”と問うてみた。会長さんが横から“先生の講演は希望者が多いんで、一人一人細かい所まで相談出来る様に毎年人数制限をするんです。役員になると必ず聞けるから”あっけにとられた。“じゃ 参加したくても参加出来ない人が居るの?それで毎年参加者が少なかったの?”“仕方無いもんね、私達ゆっくり聞きたいから”何人かが相槌を打つ。“そう、そういう形でするなら次から私は来ませんからね。私も忙しいから、自分達だけ良ければ他の人達はどうでもいいという考え方をする所で話しをする気になれないから。

 青焔展が始まる。各々が作品を制作、出品する。適当ないい加減な作品を出品しない、それは当然の事。個展ではないのだから自分が良ければいいという問題ではない。展覧会の全体の中で、レベル、雰囲気に影響を及ぼすのであるからそれを自覚しなければならない。上手い下手ではない。人は作品を鑑賞する場合、殆んどの場合、上手いか下手かは頭で瞬時思うだけ、その絵から何かを感ずるか感じないか。作者がいかに作品に真剣に取り組んでいるか否かが、見る人の心を通して伝わってくるのだ。技法や描法を頭で理解・感心しても、心で感動しなければその作品は人の心を掴まない。

 いい作品とは“心で感動し、頭で理解した作品”の事だと思う。そして展覧会でもう一つ大切な事は、招いたお客さんに喜んで頂く事、見せるのではなく、見て頂く気持ちを持ちたい。大切な時間と労力、お金を使って来て頂くのであるから、その方々に対する敬意を表したい。他の人が招いた方々でも自分の作品、自分達の展覧会を見て頂くのであるから、総ての人々に敬意を表したい。心を込めて作品を描く、誰の作品も良く見える様に心地良い展示をする。会期中、出品者総ての人が額や名札の傾き等に注意し修正に心掛ける。お客さんが見終えて会場を出る時 “いい展覧会を見た ” “来年も見てみたい ”と感じて頂ける様努めて頂きたい。

 そして心がけて頂きたい事は受付の応対。受付を担当する方は全出品者460名の代表としてそのテーブルに着くつもりで勤めて頂きたい。明るく、丁重、親切で気遣いを深く、それでいて自然体。グループ青焔展は子供さんや年配の方も多くみえます。誰に対しても差別する事無く、受付の中での私語を慎み横柄でない、常にお客さんに対する感謝の気持ちを持って接して頂きたい。いい展覧会を見たと思っても、会場を出る時受付の人達が知らぬ顔をしていては気分も台無しとなる。一人一人の方々に最善の礼を尽くしたい。それが展覧会を開催する最も基本的な礼儀だと思う。その気持ちが更に良い絵を描く事につながっているのです。

展覧会に出して良かったと思える様に。

見に来て良かったと思って頂ける様に。

 
   
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