青焔会報 2007年7月号

 
   
冤罪  
米山郁生
 
   

(前号よりつづく)

 山口県光市 母子殺害事件の差し戻し審、21人の弁護団。死刑廃止を主張する思想があったとしてなぜその様な大人数の弁護団がつかなければならぬのか。死刑廃止のパフォーマンスか、裁判官への無言の重圧か。一つの事件を利用してその運動を展開しようとするのであれば本末転倒であろう。

 その弁護の主張に事件は強姦目的ではなく優しくしてもらいたいという甘えの気持ち、強姦は死者を生き返らせ様とした儀式、水道屋の格好はコスプレの趣味、子供を殺害したのは泣き止まないので首に蝶々結びをしただけ等と主張。

しかし被告は一審の無期懲役判決後に知人への手紙で“終始笑うのは悪なのが今の世だ。ヤクザはツラで逃げ、馬鹿は精神病で逃げ、私は環境のせいにして逃げるのだよ、アケチ君。”“無期になっても17年そこそこで地上に芽を出す。私を裁けるものはこの世におらず”等と世を嘲笑う文章を書いている。

被告の弁護団は“まともな裁判の実現の端緒がようやく見えてきた”と記者会見。真実を曲げて勝つ為だけに主張する裁判であれば、それはお金や名誉に対する堕落だ。裁判所は“真実の為に名誉をかける場でなければなるまい。犯罪を犯した者に対して罪を軽くする為だけの弁護ではなく、真実を解き明かした上で、罪を犯した事以上に社会に尽くす人間に生を見いだす事が出来るかに視点を向けなければなるまい。

鹿児島県 志布志市県議選買収事件。逮捕された中山健一県議はその後平成3年7月に県議を辞職、今年4月県議選で返り咲いた。無罪判決が出て始めての県議会で県警本部長に事件の発端となった情報提供者は誰かと問い詰め、本部長は“端緒情報の内容や提供者を明らかにすれば個人の名誉を害したり、今後の捜査に支障を来たす恐れがある”と拒否。

これは全く物事のすじが通らない。無責任な証言や通告、密告によって県議を辞職させ、12人の市民を罪に陥れた責任を取る事は当たり前の事で、それが出来ない様な情報は出すべきではない。

情報提供者は無実の人の名誉を著しく損なっているのに、その人を守るという事は事の本質を欠いている。“認めなければ親も子も逮捕するぞ”と脅迫したり、家族の名前を書いた紙を踏まさせたり、その稚拙で低俗な捜査をした刑事も人の道理を外した罪を受けるべきだ。事の本質を追求すべき職務であるからには当然の事、それを曖昧にする思想が同じ様な事件を誘発する。

電車の中で注意された事を逆恨みして痴漢で訴えたり、確たる証拠も無いのに人違いで全く別人を訴える。御殿場事件はその最たるもの。ある女子高生が、帰宅の門限に遅れた。出逢い系サイトで男性と逢っていた事が判ると叱られるので集団で暴行されたと訴えウソの供述をした。犯人には知っている男性の名前を言った。男性は友人の名を言えと警察で誘導尋問され9名の友人の名を言った。その人達が共犯者とされた。女子高生はウソを重ね自白調書の犯行日さえ変更、その出鱈目さが露呈された。当然無実になると思われた判決は被告人を懲役2年に処する。

富山冤罪事件。やってもいない罪で3年の刑罰を受け、服役後に真犯人が自首、34才の男性が女性に乱暴したとされた事件。これら冤罪事件には共通した多くの問題点がある。限られた密室空間での自白強要、被告の主張の弱さ、国選弁護人の力不足、裁判官との拘置尋問の状況と杜撰さ、検察側の一方的な主張と問題意識の欠如、多くの場面で真実を追究しようとする努力がなされていない。

被告とされた人はこれによって職や学校を追われ、マスコミに騒がれ、家族や総ての人々から信用を失い、人生を挫折する状況に追い込まれる。一度報道されるとその失った信用を取り戻す為にはその何倍もの努力を必要とする。しかし、マスコミは殆んど小さな訂正記事程の報道しかされまい。もしこれが死刑執行の事件であったらどうか、司法は正義の名の元に殺人を犯す事になる。

戦争もしかり、権力を持つ者は単純な思考回路の持ち主にはなってもらいたくない。

テレビのチャンネルを廻す。どこをかけてもお笑いと料理、クイズが多い。番組を制作する為に頭と時間、金が掛からない、安上がりで時間を埋められればとしか見えてこない。絵で言えば油絵を3、4回で仕上げたり、10枚20枚並べて自動的に描くパン絵の様なもの。中にはいい芸人も居るがパンツ一つになってたった一つのパフォーマンスで笑いを取る、そんな番組を子供達が喜んで見ているとしたら問題だ。日本の子供達の学力が低下している。普段の生活の中からその要因を取り除きたい。

信じられない冤罪事件の数々、そうした子供達が受験の難関だけを無難に乗り越えていくのではなく、警察や検察、弁護士、裁判官になってゆく過程の中で、どっかりとした精神を身につけてもらいたい。

 
   
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