青焔会報 2008年3月号

 
   
おおきな輝き  
米山郁生
 
   

 ウルウルとしてゆれている瞳、ゆったりと口をむすんだ一本の線、ブルーを薄めて背景に塗り、その下に茶色がすけて見える。ブルーと茶の薄い溶けあいが温泉の温かさを表す。ふちの方には茶を濃く塗って岩肌を出す。題して“温泉に入ったウルトラマンセブン”まるでウルトラマンセブンの子供が温泉につかっている様な情景。もう一枚には“夕方おうちに帰るウルトラマンタロウ”公園で遊び疲れたウルトラマンタロウがバックの淡い夕陽の黄色に包まれて少し放心状態で家路につく。眼と口、手足の描き方がいかにも“もう疲れた 休みたいけど帰らないとお母さんに叱られる”と言っている様だ。5歳の子でこれだけ微妙な表現が出来るのだろうかと思う様な心理描写。温泉の好きな作者は時折り近くの温泉に家族で出かけるという。

 第36回グループ青?展の子供達の絵はすばらしい。小1の男の子、“はじまる輝き”“おおきな輝き”形象的に描かれた星や無数に引かれた無作為な線、ひっくりかえった大小様々な数字が宇宙の進化を感じさせる。自分の心の中の光を見つめているのだろう。同じ小1の“おばあちゃんと新幹線から見た”は雄大な富士山とその前を走る新幹線、その中からではなく客観的にその全体像を描き、確かにしっかりと僕は見たのだという記憶を画面に印す。

 小2男の子の描いた“ハワイの飛行機の中”会場にみえた友人の婚約者スチュワーデスの方が“ワァ 飛行機の中そっくり”あれもある、これもあると感心していた。この子はハワイでの想いより日頃関心を持っていた飛行機に乗った喜びをその飛行機の内部にこそ興味を沸かせて旅の記憶を確かめる様に細かくていねいに描き込んだのだろう。子供には様々に豊かな、そして少しばかりの驚きの体験と想いを重ねてあげる事が知識や情感を豊かにするのだ。大人の関心の持ち方とは違ったところに子供は眼を向けているのだという事をしっかりと知る必要がある。又、小1の女の子“たくさんの出逢いを探しに”小学校に上がり友達が出来るのかどうか。家から、犬を連れて外に出る、画面に対して描かれた小ささが心細さを表わす。しっかりと全体を塗った生真面目さがより一層その不安を重くし、無意識に心理を表わす。

 スリランカの養護施設の子供達の作品を今年も展示した。昨年展示していた子供達は施設を巣立ち、様々な職場へ就職。これまで力強く自己の内面を自由に画面にぶつけ、個性豊かな表現を見せていた壁面が一変した。バランス良い構図、色彩もおだやかでゾウや木、家の大きさも一定、形の中に行儀良く塗り込められたクレパス。そこには事象に対する感動や描く喜び、心の在り様など何もない。只、見せる為、見る人に良く見られたい為だけの絵に変わっていた。子供達は描かせられている!と問いかけた答えは、絵を指導する先生が最近入ったとの事。その先生の熱意の余り、形も色もバランスも総て先生の絵になっているのだ。青?の子供達の描いた様々な動物とスリランカの子供達の動物を見比べてみると明解だ。

 グループ青?の子供達の絵が参観者の総ての方々から賞賛を受けている。それは描く場で自分のありのままを出し、純粋に自然なかたちで、真剣に描いているからだろう。それを描き終えるまで持続する、一枚一枚の絵から各々の物語が生まれ広がる。子供達の絵はそうした生命力が総ての土台であって欲しい。

 今回の青?展の中でも19美会、20美会の人達の作品が注目された。65歳以上の年齢の方が対照となった名古屋市の高年大学、2年間の就学の後一昨年卒業された人達の有志の方が水曜日19美会として新栄教室で受講、昨年卒業の方が20美会。木曜日にレッスンを組んだ今年の卒業生21美会は来年の青?展を目指している。絵を描き始めて短期間の高年大学の卒業生の方々の進歩は目覚ましい。それは、絵に対しての心構えが子供達の心の様に純粋であるからだろう。他の教室の方も同じだが、社会の中で様々に活躍した人々がその知識、経験を備えて、それでもそれをひけらかす事無く、初心に帰って絵に取り組む、新鮮さと謙虚さ、それが子供達の欲の無い作画態度と重なってゆく様に思う。

 青?展は実に様々な人々の集まりの中で構成されている。プロを目指し全国展の日本表現派展に出品している人が30余名、知的、身体、精神と障害を持った人が150余名、趣味の人、学生、子供総ての人達が何のわだかまりも無く、同じ空間で絵を通して一体となる。お互いが純粋に心を通わせる事が出来る。これ程素晴らしい事は無い。

 無口で坦坦と一本の鉛筆を画面に埋めてゆく中学3年の花観さん、昨年迄の出品作はカエル等の動物がタバコを吸っていた、が今年は禁煙。初老の男性が笑いながら牛の世話をしている。題は“オヤジ”彼女からの皆へのメッセージか。一言加えて“オヤジ ガンバレ”

 
   
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