青焔会報 2010年1月号

 
   
真実  
米山郁生
 
   

 東京港区南麻布にある在日フランス大使館旧庁舎、これまで関係者以外一切入れなかったこの庁舎に、1月31日迄の木曜〜日曜日、誰もが自由に出入り出来る事になった。 “ノーマンズランド ”

 1957年に建てられたフランス大使館が壊され新しい庁舎に移る為、旧庁舎を巨大なアートに変身させようとするもの。まさに破壊と創造。破壊する前に企業や画廊の協力によってフランス人、日本人の70名程のアーティストが外壁、門、事務室、階段、廊下、トイレ、駐車場に至るまで総ゆる表現方法によって各々の独自の芸術表現を試みようとするものだ。中には会期中も作家が制作を続行し、その経過を日を追って見る事も出来たり、鑑賞者が絵具入りのボールを壁にぶつけ作品制作に参加したり、駐車場には協賛のプジョー・シトロエン・ジャポンが提供したコンパクトクーペ「207t」にフランスの女性アーティストが車や駐車場の地面に一体感を出すペイントをしたり、実に自由奔放な活動が様々な機関を通して紹介された。流石フランス、国をあげて芸術家の活動を支援、その思想の表われがこの “ノーマンズランド ”だ。社会の総ゆる事象はそのもの単独では成り立たなく、様々な事柄が複雑に融合して成り立ってゆく。
芸術の国フランスでは国をあげての施策で芸術を援助、様々な美術館で小さな子供達が床に座り込んで話を聞いたりメモを取ったりの姿を見受けられるであろう。又、建築物を造る際はその何%かを芸術購入に充てるべしと法律化されていると聞く。
描く事は正確に物を見る事(真実を知る事)、それを再現する力を持つ事(真実を認識する事)、そして表現する事(認識を行動に移す事)、作品として完成する事(行動の成果を理想的なものにする事)、描く事は単に作品を完成するだけでなく、社会の中でその理想を形造ってゆく事によって、芸術の意味が現実のものとなる。社会と遊離して芸術があるのではなく、人々の心の内奥にある真実と理想が社会の構築、人間の生き方の真実を求める為の芸術でありたい。プロであってもアマチュアであっても、その価値は変わるものではない。

 総ての職業についても同じで、政治家は総ゆる人間が平等に幸福になる為にどうあるべきか。知能、健康、国境、生まれ育った環境、総てに差異はなく、個々の人々の良心、精神、魂、生き様を通してより平等に近づける事が政治の役目であろう。弁護士でもその職業として依頼者の利益を求めるだけでなく、真実と社会の平等に於いて依頼者に不利であってもその生き様に気付き正してゆく事が望まれるし、経済人は自己の利益、発展だけでなく、いかに社会に還し奉仕する事が出来るのか、そこに最も重要な価値が生まれる。

 弱者は自らの要因によって弱者となったのではなく、多く社会の発展の中で生産的、経済的差異とその矛盾によって、状況の中に押し込められてゆくのであろう。とすればお互いがお互いをよく理解し、各々の立場を尊重し助け合わねばなるまい。世の中に広められた知識は絶対ではなく、現在解っている事はその時点迄に解明されている事柄なのであって、絶対真実は中々姿を現さず、我々は表面的な虚ろな真実を土台にした社会の中で成り立っているのかも知れない。

 12月暮のある日、テレビで放映していた “ゴッホは自殺したのではない ”と。ゴッホは自ら耳を切った事も切断の状況から医学的に不自然、様々な理由からゴーギャンが切ったのではないか?と。

 ゴーギャンの描いた絵の中に “椅子の上のヒマワリ ”という絵がある。バックの暗闇に花の様な、いやジッと作者を見つめる眼の様な絵がある。これはゴーギャンが自責の念から描いたのではないか、と言われている。私もこの作品と同じ様な作品を見た。ある精神病院の患者さんが画面一杯に一輪の花を描いた。その中心が眼の様に描かれている。私が、この絵は学校の教室の鍵穴からのぞき込んで中の様子を伺っている様だ、作者は放火をしたり教室を荒らしていたのではと尋ねると、事実であった。ゴッホがピストル自殺をした。自殺をする人間がピストルを左脇腹から斜め下に発射する事はあるまい。手当てをした友人の医者が適確な処置をしなかったと言われる。ゴッホは自分で撃ったと何度も言う。テレビでは弟テオが自殺をしようとピストルを持って兄の元へ、止めようとしたゴッホと揉み合って誤って発射したのではないかと。しかし真実とは・・・・・。

 ピラミッドは奴隷が造ったのではない。ガリレオ・ガリレイは落体の実験をしていない。それでも地球は動いているとは言っていない。様々な事象の発明、発見によって、これまで事実とされてきた事柄がくつがえされる。誰が何を、どう伝えるか、芸術は人なり。いい加減な絵を描かない為にも、描く時だけではなく、曖昧な言動は心したいと思う。                      

 
   
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